機能性ペプチドが毛髪を成長させる

毛髪は根元の部分の毛母細胞が、毛乳頭から栄養を受け取って盛んに細胞分裂をすることによって繊維化して成長しています。毛髪には成長を促進する成分があることは以前から知られていましたが、それが何であるのか確定されていないことから、多くの研究者を解明に取り組んできました。その成長促進成分が機能性ペプチドであることをアジュバンコスメジャパンと理化学研究所（生命機能科学研究センター器官誘導チーム）の共同研究チームが発見したと発表されています。

 毛髪の成長促進の最新研究

ペプチドはアミノ酸が２〜５０個ほどつながったもので、それ以上に長くつながったものはたんぱく質となります。食品として摂ったペプチドは、一般にはアミノ酸に分解されるとされていますが、実際にはすべてがアミノ酸に分解されるわけではなくて、ペプチドのまま吸収されるものもあります。ペプチドの中にはアミノ酸の組み合わせによって、栄養成分となるだけでなく、さまざまな機能があることが知られています。その機能があるペプチドが機能性ペプチドです。

機能性ペプチドは、血圧の調整に関わるものや認知機能に関わるものなどが発見されて、すでに機能性食品や医薬品の材料、化粧品素材などにも使われています。化粧品素材としては、特定の細胞に情報伝達をする働きがあるもので、細胞の増殖によるシワの改善、コラーゲンの産生促進、メラニン産生の抑制によるシミの防止などを目的として配合されています。

毛髪の成長促進というと、これまでは男性型脱毛症に対する効果の研究が進められてきましたが、機能性ペプチドを活用することによって女性の脱毛症への効果も期待されていて、男女ともに使用可能な新たな毛髪成長促進効果が期待されています。

共同研究チームが取り組んだのは、機能性ペプチドの中で毛髪を成長させる効果の確認で、その成分を機能性ペプチドＡと名づけて、ミノキシジルと同等に成長を目指して始められました。ちなみに、ミノキシジルは壮年性脱毛症における発毛と、脱毛の進行予防の効果が認められる第１類医薬品での成分名です。

今回の研究では、毛髪に有効な素材探しと作用機序（薬剤が効果を発揮するメカニズム）の解析を目的として、さまざまな物質のスクリーニング（複数の対象の中から条件に合った対象を選別）が行われ、育毛作用の解析と作用機序の解析が行われました。

研究発表によると、皮膚の中に隠れている毛髪を包んでいる毛包は再発生を繰り返す唯一の器官で、生涯にわたって毛周期リズム（ヘアサイクル）を繰り返す性質を持っています。また、毛幹伸長は日数を経るに従って伸長速度が変わり、毛周期は成長期と退行期に二分されています。

最初に５１種類の素材について、毛周期長が約２０日の生体モデルを用いて毛幹伸長速度と最大毛幹長の測定が行われました。次に育毛効果の作用機序を明らかにするために、ヒト由来毛乳頭細胞に各素材の成分を添加して、遺伝子発現も解析されました。その結果、比較対象用のコントロールでは毛幹の成長促進は認められなかったのに対して、ミノキシジルと機能性ペプチドＡは毛幹伸長速度と毛幹長が有意に上昇していることが認められています。

 

育毛効果のメカニズム

育毛効果の作用機序については、ヒト由来毛乳頭細胞を各成分に添加して、遺伝子発現を解析した結果、毛包周辺の毛細血管の増殖や新生を促進する働きを持つ成長因子ＶＥＧＦと、毛母細胞の増殖・分裂を促進する働きを持つ成長因子ＦＧＦ–７の両方の発現量が増加して、ミノキシジルと同等または、それ以上の濃度依存性が認められました。

これの結果によって、機能性ペプチドＡがミノキシジルと同等に毛髪を成長させることが発見され、毛髪の成長を制御する毛乳頭細胞における育毛に関連する生理活性物質の遺伝子の発現を誘導することが明らかにされました。

一般的には男性型脱毛症の原因は毛髪の軟毛化による成長期の短縮、女性型脱毛症の原因は休止期の延長によるものと考えられてきました。また、最近の報告では成長因子ＶＥＧＦが成長期毛包を増加させることや、成長因子ＦＧＦ–７が休止期毛包を減少させることが指摘されています。そのことから、機能性ペプチドＡが成長因子ＶＥＧＦと成長因子ＦＧＦ–７の両方の遺伝子発現を促進させるということは、新たな育毛製品の開発につながるということです。

この研究結果は日本臨床毛髪学会学術集会で発表され、機能性ペプチドＡの育毛効果についての特許出願が行われています。実際に使用できる育毛剤が登場するまでには、まだ期間がかかるものの、新たな育毛剤の登場に大きな期待が寄せられています。

根本的な毛髪の成長は、これまでの薄毛対策を根本的に見直すと同時に、自毛植毛を選択する人にとっても、自分の毛髪の健康を維持するためにも大きな期待が寄せられているところです。

 

機能性ペプチドによる毛髪成長促進効果

https://www.adjuvant.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/20210210_ADJUVANT-RIKEN_PRESS.pdf