毛髪再生医療の実用化に向けた臨床研究

脱毛症の中でも男女の壮年性脱毛症は発症頻度が高く、これを気にかける人も急増しているものの、医学的には重篤な疾患とはされていません。そのためにQOL(Quality of Life=生活の質)を向上させることを目指した治療法の開発が期待されています。

 

壮年性脱毛症へのアプローチ

壮年性脱毛症の治療法としては、国内では複数の薬剤が用いられていますが、継続的な服用が必要であることや、女性の場合には薬剤の選択肢が限られていることなどから、男女ともに充分な結果が得られていないのが実際のところのようです。

壮年性脱毛症に対応する方法としては、自分の毛髪の細胞の能力を発揮させるものとして自分の毛髪を移植する自毛植毛が注目されています。将来的な研究の一つとして、自分の毛髪の細胞そのものを用いる方法の研究は以前から進められてきましたが、再生医学の研究に取り組む複数の大学の研究機関が協力して、新たな方法が期待されるようになりました。

その研究に取り組んでいるのは東京医科大学を中心とした研究チームです。東京医科大学では、2016年から2019年にかけて、毛球部毛根鞘(DSC)細胞加工物(S−DSC)を用いた自家毛髪培養細胞の頭皮薄毛部への注入施術の安全性と有効性を検討する臨床研究が実施されていました。その結果、薄毛部の小さな面積に一度だけ注射した際の有効な細胞濃度を決定して、安全性を確認したとして発表されています。

東京医科大学の研究チームは、東邦大学、資生堂と共同で、脱毛症や薄毛に悩んでいる人を対象に、医師主導の臨床研究を行ってきました。その結果、自家毛髪培養細胞を用いた細胞治療法が男女の壮年性脱毛症の新しい治療法になり得ることを示すことができたとしています。

この探査的臨床検査は 50人の男性と15人の女性の被験者に対して、脱毛部頭皮の4つの異なる部位に、異なる量のDSC細胞またはDSC細胞を含まないプラセボ懸濁液を1回注射して、12か月後まで総毛髪密度、積算毛髪径、平均毛髪径を測定しました。

その結果、DSC細胞を注射した部位の総毛髪密度、積算毛髪径は6か月後と9か月後にプラセボと比較して有意に増加しました。男女でも有効性に差はなかったといいます。

その結果を受けて、今回実際されたのは検証的臨床検査で、さらなる臨床における治療法の確立を目指すために、薄毛が目立つ頭頂部と、その周辺のより広い範囲の薄毛部に自家毛髪培養細胞を複数回注入して、見た目でわかる治療効果と安全性を示す必要があることから、杏林大学の研究チームを加えて、四者(東京医科大学、東邦大学、杏林大学、資生堂)共同で新たな臨床研究が始められることとなりました。

 

1年半後には成果が確認される

臨床研究の実施医療機関は東京医科大学病院、東邦大学医療センター大橋病院、杏林大学医学部付属病院の3施設になります。

研究では、同意を得た被験者の後頭部から少量の皮膚組織(直径数mm)を採取して、それを細胞加工施設(資生堂細胞培養加工センター)に輸送して、毛包DSC組織を単離、培養して、細胞加工物(S−DSC)を獲得しました。

20歳以上の男女合計40名の被験者に対して、頭頂部と、その周辺の広範囲の脱毛部位に細胞加工物(S−DSC)注入しました。そして、一定期間後に、もう一度同一部位に注入されました。

対象となったのは壮年性脱毛症と診断された人で、脱毛症以外には健康状態が良好な人で、臨床研究期間には毛髪成長に影響を及ぼすと考えられる医薬品、医薬部外品、育毛剤の使用を控えることと、臨床研究結果に影響を影響する可能性がある施術を控えることが求められているのは当然のことです。

観察期間は1年半で、安全性のフォロー期間は2年となっています。

検証的臨床検査の結果が出るのは、少なくとも1年半後となります。

この臨床研究は、男女の壮年性脱毛症の患者に対して細胞加工物(S−DSC)を脱毛した部位に反復して注入し、脱毛症の持続的な外観改善効果を目指す治療法の開発を目的としていますが、この治療法は薬剤治療と自毛植毛の課題の解決にも取り組むことができる可能性が期待されています。

薬剤治療では使用の継続が必要で、一部の薬剤は女性が使えないことが指摘されています。自毛植毛では移植する毛髪数の限界なども指摘されています。今回の臨床研究の成果は、自毛植毛と組み合わせて使用することで、さらなる好結果を得ることが期待されているということです。

 

毛髪再生医療の実用化に向けた臨床研究

https://www.tokyo-med.ac.jp/news/20201210pressrelease.pdf