肥満が薄毛を進める仕組みがわかった
脂ぎっていると、薄毛になりやすいような印象があります。男性は頭皮の皮脂が多く、男性ホルモンの分泌が多くなると皮脂腺にたまる皮脂が増えるのは事実です。皮脂が多くなると毛穴が詰まったようになって、毛髪の生育にも影響を与えます。皮脂は頭皮だけでなく、毛穴から外に出てくると毛髪にも付着して、どうしても脂ぎった感じになってしまいます。しかし、皮脂と薄毛の関係については、まだ十分には解明されていないところがあります。
太りすぎは抜け毛を増やす
もう一つ、脂ぎった印象を与えることとして太り過ぎがあげられます。食事で摂る脂肪が多くなると、脂肪細胞の中に蓄積される中性脂肪が増えて、これが太る結果になります。脂肪が多く含まれる食事と薄毛については研究が進められていて、肥満が薄毛を進めていくメカニズムが解明されています。
この研究成果を発表したのは東京医科歯科大学の研究チームで、東京理科大学やアメリカ・ミシガン大学との共同研究によって、肥満を引き起こす要因が毛包幹細胞に働きかけて、脱毛を促進させる仕組みを突き止めたと発表しています。この研究は日本医療研究開発機構の老化メカニズム解明・制御プロジェクトの支援を受けたもので、国際科学誌の「Nature」(ネイチャー)のオンライン版に2021年6月23日に発表されています。
肥満に関連する研究というと、これまでは臓器の老化や、臓器と関わる病気(糖尿病、肝臓病、腎臓病など)が注目されてきたのですが、老化による影響ということでは脱毛も同じように考えられています。初めに進められた肥満と薄毛の研究は男性型脱毛症(AGA)でした。男性型脱毛症は男性ホルモンが影響していて、そのことが強調されてきましたが、それ以外の原因(遺伝や生活習慣など)も考えられていました。
その原因として、薄毛が目立ってくる中年以降に肥満が増えていくことから、肥満と薄毛との関連性が注目されたというわけです。
研究グループでは、毛髪の再生の元となる毛包幹細胞に注目しました。毛包は毛髪を作り出す毛母細胞を包んでいる部分で、頭皮から見える部分は毛穴です。毛母細胞は、血管とつながる毛乳頭から栄養を受け取って、細胞分裂によって毛髪が作られていきます。毛包幹細胞は毛包を再生させる役割があり、毛包幹細胞が十分にあるときには毛包が正常に形づくられて、毛母細胞も成長して脱毛が起こりにくくなっています。
ところが、加齢によって毛包幹細胞が枯渇した状態になると、脱毛が進みやすくなり、毛髪の再生が間に合わなくなります。これが薄毛の原因となっていくことが確認されています。毛包幹細胞への影響を確かめるために、肥満の原因となる高脂肪食を与える試験を初めから人間で実施するわけにはいかないため、まずは動物試験が行われました。
高脂肪で薄毛が進んでいく
高脂肪食と薄毛の関係を確かめるために使われたのは年齢が異なるマウスです。老齢マウスに1か月間だけ高脂肪食を与えただけでも毛の再生が遅れるようになりました。これに対して若齢マウスでは1か月間では毛の再生が遅れることはなかったのですが、数か月以上にわたって高脂肪食を与えて、毛周期(ヘアサイクル)を何回か繰り返すことによって毛の再生が遅れて、毛が薄くなっていくことが確かめられました。
これを人間に当てはめて考えてみると、中年以降になって代謝が低下してくると、それほど長い期間でなくても脂肪が多い食事を続けていると、簡単に薄毛になってしまう可能性が高いということです。
なぜ、そのような年齢の違いによって薄毛が起こるのかということですが、研究グループでは老齢マウスに短期間の高脂肪食で毛包幹細胞の酸化ストレスや表皮分化に関係する遺伝子の発現が誘導されることを確認しています。短期間というのは4日間のことで、マウスと人間を同じように考えることはできないかもしれませんが、それほど長い期間でなくても脂肪が多く含まれる食事をすると毛包幹細胞に影響が出てしまうということです。
若齢マウスでは3か月以上にわたって高脂肪食を与えていますが、その結果として毛包幹細胞の中に脂肪滴が溜まって、成長期に毛包幹細胞が分裂するときに表皮や脂腺に分化することで毛包幹細胞が枯渇することが明らかにされています。
脂肪滴というのは、中性脂肪などが多くなりすぎたときにできる液滴(涙型)の形をした細胞小器官です。これは以前から脂肪細胞の中にできることは知られていましたが、脂肪細胞だけでなく、他の器官にも作られることがわかってきました。毛包幹細胞が減ってしまうということは、毛母細胞の成長が遅れて、抜け毛のあとに毛母細胞に成長によって毛髪の成長が始まるのが遅れることになり、これが薄毛を促進することになります。
毛包幹細胞が減るだけではなく、今回の研究では毛包幹細胞の分裂にも高脂肪食が影響を与えることが確かめられています。毛周期の脱毛のあとに毛母細胞が急激に分裂して毛髪が伸びていく仕組みですが、脱毛まではブレーキがかけられていて、脱毛後にはブレーキがはずれて、アクセルが踏み込まれるようになっています。高脂肪食を続けていると、ブレーキははずれてもアクセルが踏み込まれない状態になって、毛髪の成長がゆるやかになってしまいます。
若い男性では、短期間に多く脂肪が含まれた食事をしても薄毛になりにくいとしても、そんな食生活を続けていると必ずや薄毛が進んでいくということを示す結果ということです。自毛植毛は、健康な自分の毛髪を移植するものだけに、その部分が抜けやすい状態では困ってしまいます。それだけに高脂肪食には注意をしたいものです。
高脂肪食などによる肥満が薄毛・脱毛を促進するメカニズム
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55298_ext_04_2.pdf
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